こんにちは、バイヤーの岡林です。
前回書きました呉市の訪問後、面舵を東に向け尾道市に移動しました。岡山市と広島市のちょうど中間地点に位置する尾道も呉同様に、かねてから立ち寄ってみたい場所でした。
駅前には、ボランティアで観光案内もしてくれる地元の方々がおられ、周辺地図を頂き歩き始めました。
おススメの散歩コースを歩いてまず目に飛び込んできたのが、海を挟んで対峙する「向島」への渡船でした。島を行き交う人々、クルマが船に揺られて下船するのが見えました。レトロな乗り合いバスも情緒溢れる光景ですね。大人100円という良心価格。ブロロロ…と鳴り響く渡船のエンジン音が瀬戸内の岸部にこだまします。
途中で昭和の香り漂う映画館を通過。こういう映画館、都会ではめっきり見なくなりました。小学生のころ、当時の500円札を握りしめて、3本立ての映画を観に行ったものです。
私が尾道でまず連想するのは、映画の町というイメージ。世代的にも大林宣彦監督の「転校生」、「時をかける少女」、「さびしんぼう」の舞台となった尾道は、いわゆる“尾道三部作”はこの地名を一気に全国区にしました。大林監督もここ尾道出身です。
そして目的地のひとつである「おのみち映画資料館」へと向かいました。
尾道市役所の正面という分りやすい場所にありました。尾道駅から歩いて15分くらいでしょうか。
入り口脇にある鉄の造形は昔の映写機と思われます。ドイツ語が打刻されていたので、輸入物でしょうね。重厚な映写機のお出迎えに、心躍らせながら中へと進みました。
入館料500円を払って中に入りました。そこは尾道とゆかりのある名画資料の宝箱でした。
とりわけ、昭和が生み出した巨匠、小津安二郎についての資料が多数展示されていました。
小津安二郎の代表作に「東京物語(1953年公開)」がありますが、尾道でもロケが行われました。
老夫婦(父役は笠智衆)が東京に住む子供たちに会うために上京するのですが、戦後の苦しい生活のもと、実の親に対しても心からかまってあげることができませんでした。その中でも、戦死した二男の嫁である「紀子(原節子)」が、上京した義理の両親を暖かく迎え、実の子供以上に世話をしてあげるのです。
血のつながりを持つ実子からは冷たくされる一方で、義理の娘である紀子からは暖かいもてなしをうける。親子のつながり、ひいては「家族とは何か?」を我々に投げかける作品でした。半世紀以上前の作品になりますが、時代を超えても今なお我々の日常に問いかけるテーマではないでしょうか。
その老夫婦は広島・尾道から上京するという設定でしたので、尾道ロケが行われたという次第です。
館内ではミニシアターもあり、当時の映画がいくつか上映されていました。ここで尾道ゆかりの名画を観るというのは一興ですね。また、新藤兼人監督の資料もありました。私は永井荷風原作の「墨東奇譚」を映画で観ましたが、新藤監督の作品だったようです。
そして映画資料館を後にして、また歩きました。尾道は映画のみならず、文人や芸術家も多く住んだ場所です。
アーケード街がありましたので、ここを通って帰ることにしました。
アーケードの途切れた間から山側を覗くことができます。「坂の街」とも言われる尾道は、山肌に沿って多くの民家やお寺が並んでいます。心にしっとりとくる情景です。
とてもいい街です、尾道。次は初夏に来たいし、できればしばらく滞在したい…。夢の“晴耕雨読ライフ”がここにあります。慌ただしい日常から束の間の休息を得るには最良の場所だと思います。クルマやバイクもいいですが、在来線に乗って電車に揺られる旅もおススメします。海の幸は新鮮だし、尾道ラーメンもあるし。
瀬戸内のやさしい海と背景にそびえる小高い山。名画に収められた舞台に自分を重ね合わせるシーンがここ尾道には点在します。
おしまい。