モトーリモーダAPITオートバックス東雲探訪記(其の弐)
HEEL TREAD(ヒールトレッド)の靴下(1500円前後)の品ぞろえに感動した私だが、購入はしなかった。なぜなら私は、足がムレるタイプだからである。四季を通じて足に汗をかいているため、5本指靴下でないとダメな体質なのだ。これはオッサンゆえなのか、あるいは生まれつきなのか。我が家の息子たちも足に汗をかいているので、おそらく遺伝的なものだろう。
靴下を断念して他を見回すと、またまたビビビと来た。それは、ガルフレーシングのグッズたちであった。
ガルフと言えばポルシェ。私が愛するフェラーリの宿敵だ。しかし宿敵だから憎いというわけではない。私は生涯ポルシェを買うつもりはないが(節約のため)、ガルフカラーには強く惹かれる。理由は自分でもよくわからないが、子供のころ、プラモの箱絵でガルフカラーのポルシェ917を見てカッコイイと思ったからだろうか。あるいは小学生の時、『栄光のル・マン』を見たせいか。とにかく私は、ガルフカラーの水色とオレンジにフラフラと引き寄せられた。
うーん、今見るとなんともクラシカルなこの色合い、猛烈にカッコイイ。スニーカーもポロシャツもバッグもウルトラカッコイイ。つい「ガルフレーシングのグッズ、全部くれ!」と大人買いしたくなる。
バブル期、マラネロのフェラーリ本社を訪ねたF40購入予定者ご一行様が、本社前のグッズショップで「その棚のグッズ、右から左まで全部くれ!」と言って店員を驚かせたというが、その気持ちがよくわかる。人間、心の奥底に眠るセンサーを刺激されると、一気に物欲が全開になってしまうのである。「ここで買わないと一生買えないかもしれない」と思えばなおさらだ。
マラネロと違って、A PIT AUTOBACS SHINONOMEは自宅からクルマで40分。いつでも来れる。それでも胸に迫るこの一期一会感!それはおそらく、ファッション店に行くことをできる限り避けてきた自分のこれまでの人生から来る焦燥感か。
なぜガルフレーシングのグッズにこれほど惹かれるのか。それはガルフレーシングが自分にとって適度にクールだからである。もちろん私だってマルティニなどイタリア系のレーシングアイテムは大好きだ。一番好きなのはアジップの火を吐く6本足の犬だが、それはなかった。とにかく、イタリア車を愛する者がイタリアンブランドを身に着けるのは、アタリマエすぎるという感覚がある。しかしガルフレーシングなら実にクール!
たとえば、フェラーリ328やカウンタックアニバーサリーから降りてきたオッサンが、全身マルティニカラーだったら、「あぁ、この人はイタリアが大好きなんだな」となるだろう。実にまっとうである。
しかしそれがガルフカラーだったらどうか。「あっ、ポルシェも好きなのかな」「ポルシェも持ってるのかな」と思ってもらえるのではないか? ひょっとしてガレージには、世界の名車がズラッと並んでるのかもしれないワ! まで思ってくれるかもしれない。オッサンにそこまで注目&想像する者などめったにいない気もするが、少なくとも一筋縄では行かない雰囲気を醸し出すことはできるはずだ。そんな思いが脳内を駆け巡り、私はガルフレーシングのグッズが全部欲しくなってしまったのである。
その時、ふと目に入ったグッズがあった。最初に見たドライビンググローブの棚の中央である。
そこには、様々なレーシングブランドをあしらったマスクが並んでいた! その中にガルフレーシングもあった! しかもゼッケン20! うおおおお、スティーブ・マックイーン降臨!
これを付けてフェラーリを駆れば、脳内『栄光のル・マン』が実現する。自分のフェラーリの中でポルシェと戦うことができる!
値札を見ると、1000円であった。おおおお、俺は買う! このマスクを買うぞ! 今ここで買わなかったらもう一生買えないに違いない!(つづく)
清水草一プロフィール
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。
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A PIT AUTOBACS SHINONOMEは「クルマもヒトもピットイン」をコンセプトにオープンした、オートバックスの新たなフラッグシップ店。クルマに関わる安心・安全はもちろん、クルマと共に過ごす居心地の良い空間を演出。クルマに関するあらゆるコトが新たに発見・体験できる売場では、クルマ好きにはもっとワクワクする楽しさを提供するとともに、BOOK&CAFEスタイルを導入することで、同乗する家族や友人といった幅広い世代の方々が一緒に楽しめる店舗を目指します。