モトーリモーダAPITオートバックス東雲探訪記(其の弐)
A PIT AUTOBACS SHINONOME店にて、ガルフレーシングカラーのマスク(税込1,100円)を購入し、私は大いなる達成感を得た。鏡に映して見ると、実にクールかつお笑いだった。ただのクールだとイヤミになるが、お笑いの要素があればイヤミはかき消される。人には隙というものが必要なのである。
クールなのになぜお笑いかというと、中央の〇に20というゼッケンが、絶妙にマヌケだからである。〇は0系新幹線の先頭車両っぽいので電車ごっこのようにも見えるし、あるいは制限速度20km/hの標識のようにも見える。それがたまらなくイイ!
しかもその下にはオレンジ色のカラーリングが入っているから、自分の顔がレトロなレーシングカーになったような気分にも浸れる。「うおおおお、俺はポルシェ917だ!」とでも言おうか。
ガルフレーシングのマスクがあまりにも気に入ったため、他のガルフレーシングアイテムも試着してみたくなった。
私は自動車ライターなので、常日頃いろいろなクルマを試乗レポートしているが、試着はあまりしないし、そのレポートなどしたこともない。つまり生まれて初めての試着レポートだ。
だが残念なことに、A PIT AUTOBACS SHINONOME店にはガルフレーシングのジャケット系のアイテムはなかった。
スニーカーやバッグでは満足できない、ジャケットを着てみたい。そして全身ガルフレーシングになってみたい!
すると、モトーリモーダ広報担当の萩原氏がこう提案した。
「銀座店にはいろいろ取り揃えていますよ。行ってみます?」
じゃ行こう。ここから銀座まで、クルマなら15分くらいのはず。行ける時に一気に行ってしまわないと一生行けなくなる。善は急げだ。
私は20年以上前から、「フェラーリが欲しいなら、すぐに買ったほうがいい。善は急げだ!」と言っているが、それと同じだ。私は萩原氏を、わが日常の足であるエリート特急(激安中古の先代BMW320d)の助手席に乗せ、銀座店に急行した。
そこは、銀座8丁目の一角にある、とってもオシャレさんなブティック……って言うの? 呼称はよくわからないが、とにかくステキなお店だった。
店内に入ろうとして、ガラス扉の把手に感動した。なんと、球形の5速MTシフトノブだったのだ! それも非常にフェラーリっぽい! Rがちょっとズレてるのでフェラーリではないが、何のシフトノブだろう。実にカーマニアの心をくすぐる仕掛けである。このドアノブを握った瞬間に、カーマニアなら「何か買って帰らねば!」という気持ちになる。
なにせこの世はカーマニアにせちがらい。カーマニアの気分を高めてくれるブティックなど、日本では見たことがない。近ごろ鉄道マニアはいろいろなところで優遇されている気がするのに、ここ20年来カーマニアは冷遇されている。だからこういう小技で心をくすぐられると、すぐにグラッと来るのである。
銀座店には、ガルフレーシングの上着が何種類も揃っていた。まずはマスクと同じ水色とオレンジのジャケットを試着した。
(うーむ……)
ついでに同色のキャップも被ってみた。
(これはイカン!)
同系統でコーディネートすると、「何かの人」に見える。つまりガルフレーシングの人である。ガルフレーシングを知らない人には、「水色の人」に見える。なんだかよくわからない水色関係者である。着るものを全部揃えすぎるとダメなようだ。
そこで今度は、同じガルフレーシングながら、濃いグレーの革ジャケットを試着した。
(これはイケる!)
ガルフレーシングのマスクと、ガルフレーシングの濃いグレーの革ジャンのコーディネートは、水色の人ではないけれど、よく見ればガルフレーシングの人。適度なズラシ感が実にイイ。
ついでにオレンジのガルフレーシング革ジャンを羽織ってみると、こちらも色の取り合わせはイケていたが、サイズがXLだったのでさすがにブカブカ。買うなら濃いグレーでキマリだ。
このように私は、モトーリモーダ銀座店で試着を堪能した。クルマではなく服でこれほど楽しめるとは、カーマニアにとって新しい発見であった。
清水草一プロフィール
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動。